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『ちょ、ちょっと!!あなた!!』
はっ、としたように呼びとめる。
しっかりと、青年の服の袖を掴んで。
「なんだ?」
『ま、まだ、お礼を云ってない…。有り難う。』
危ない所を助けてもらったのだから、お礼を云わなくてはいけない。
お礼も云わずに家に帰った日には、後々、絶対に後悔してしまう。
小さく頭を下げて云うと、不意に青年は話し始めた。
「お前、名は?」
『蔚音(イオン)。…あなたは?』
「私は…、グリュンワルド。」
少し考えたような素振りを見せた、グリュンワルドと名乗る青年。
その姿を見て、少女はピンと来た。
『あなた、記憶がないでしょう?』
「…!何故、それを?」
『だって、それがここのルールなんだもん』
そう、ここは死後の世界。
生前に何らかの後悔を残して死んでしまった者たちが集う場所。
そして、その集った者たちは一つの共通点がある。
彼らには生前の…特に、強く思い残した事に関しての記憶が全くない。
唯一思い出せるのは、名前と、生前の立場だけだ。
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