一章 幼少

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199×年、8月中旬。 とある地方のそれなりに栄えた町。 緑と灰色、自然と都会が程よく共存する豊かな町並。 その日は全国的に平均で35度を越えるなど猛暑日だった。 雲一つ無い快晴な太陽の下を歩く人々は皆、手に持つタオルで汗を拭き、団扇で扇ぎ風を送り、限界が来ると飲み物を口に運ぶなどをして、この暑さを紛らわしている。 日本中が暑さに参る中、とある住宅街を一人の少年が走っていた。 無地の白Tシャツに半ズボン。 素足にサンダル、麦藁帽子を被ったどこにでもいる少年だ。 「はあ、はあ、はあ…」 少年額からは汗がだくだくと流れ、息は荒い。 麦藁帽子で日差しは多少防げてはいるが、この炎天下でアスファルトの上を走る行為はかなりの体力を消耗する。 加えて大量に噴き出す汗。 これでは1時間も持たない内に倒れてしまう。 それを頭で理解していながら、この少年は何故走り続けているのか。 それはいたって簡単。 「アイスー、アイスー。」 音符でも付きそうなほどウキウキしている少年は、母親から貰った500円玉を握りしめ、家から走って10分の距離にあるコンビニへお使いに行っているからだ。 口癖の様に、アイスアイスと言っているが本来は母親に牛乳を買ってきてくれ、と頼まれているのだ。 しかし炎天下の中、息子にお使いを頼むにはそれなりのご褒美をやらなければならない。 つまり牛乳を買って出たお釣りで好きなモノを買ってもいいと言われているからだ。
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