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つまり殺しはしないが十分相手にダメージを与えられる。
死ぬほどの苦しみはあるが死ねない。
これほどえげつない力はあるだろうか?
だけど殺したくないけど相手を懲らしめたいと思う俺にはうってつけだ。
そうと分かれば手加減はいらない。
しかし一瞬でその決意は破られた。
「っ!?」
喧嘩で経験した多人数相手では視界以外を警戒するということを忘れて、盗賊を目の前にいるやつらだけだと油断した俺の背後から、どこからか現れた新たな盗賊が斧を降り下ろしてきた。
防御と反撃が間に合わないが、強化された身体ならただの武器攻撃に耐えきれるはずなので何もしない。
しかし、ケルが襲いかかる盗賊に飛び付く。
ウルが盗賊の左腕に、
ガルが右腕に、
コンが首筋に、
それぞれの首が子どもながらも発達した鋭い牙を肉に深く食い込ませていく。
その一秒あるかないかの時間。
俺の視界が真っ赤になった。
「ぐぇはあっ…!!」
ケルに噛み付かれた盗賊はのけ反った体勢から口からおびただしい量の血を天に向けて吐き出す。
そのまま盗賊は仰向けに倒れてその身体に重力に逆らえず吐き出した血飛沫が降り注いだ。
「ガルルルルル!」
俺に見せるあの愛らしい顔とはかけはなれた獣の顔を見て思い出した。
ケルベロスが恐れられるもう一つの原因。
ケルベロスの唾液には猛毒植物であるトリカブトの成分が含まれていることを。
かつてヘーラクレースによって地上に引きずり出された時、太陽の光に驚いて吠えた際に飛んだ唾液からトリカブトが発生されたと言われている。
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