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「う、うわああああああ、化け物だああああ!!」
突然の仲間の壮絶な死に状況を把握しきれなかった盗賊達だが、一人が悲鳴を上げると次々に怯え、逃げ出す。
「普通の奴じゃ敵わねえ!あいつの所へ退くぞ!」
普通の奴とは今の盗賊達みたいなただの人間。
あいつとは、恐らくじいさんの言っていた奴らの仲間のメイジのことだろう。
だがケルがそれを逃がすはずも無い。
目の前の獲物を。
大好きであろう俺を傷つけようとした盗賊を。
唸り声を上げて盗賊達を追いかけようとするケルを、俺は後ろから掴まえて胸に抱き寄せた。
《クゥゥ…》
抱き抱えられたケルは一瞬だけ抵抗する素振りを見せたが、かぎなれた匂いを嗅いで俺と分かったみたいで直ぐに腕の中で大人しくなった。
「ケル…寄せ。」
決して抱いた腕をその小さな体から離さず優しく、諭すように呼び掛ける。
だが、戦いが始まってから直ぐに傍観を決めていたじいさんが今の俺の言葉に待ったをかけた。
『何故じゃ、何故止める?
今のお主にケルベロスの助勢は多いに役立つぞ?』
「そういう問題じゃない!
ケルに人を殺すのを止めさせるだけだ!」
だが、じいさんから反ってきた言葉は冷たかった。
『奴らは屑じゃぞ。
罪なき弱者からモノだけでなく、命をも奪う。
慈悲をかけるに値しない輩じゃ。
誰も文句は言わん。』
それは老人と言う人生を、世の中をたくさん経験したものだけがハッキリ言える言葉だった。
長生きもすれば必然と世の中を見てしまう。
人間の持つ善と悪の部分。
悪には二つの道がある。
一つは、何かしらの理由で悪行を行い、罪の意識を持てる悪。
そう言った悪には説得などの非暴力などの手段を使えば中には改善の余地がある。
しかしもう一つは、自分の持つ欲求にとことん忠実で悪行を行い、他者を平気で傷付けることの出来る悪。
そう言った悪には非暴力による説得など通じない、中にはそれを逆手に陥れようとする者もいるため暴力には暴力で訴える手段しか残されない。
今、村を襲っている連中は間違いなく後者だ。
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