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「しょうがないよね」
こんな時思う。絶対に「そうだね」なんて言ってやらないと思う。そんな気になっても絶対に言わない。言いたくない。特に今は。
『そうだね。って言われると思ってるの?』
「じゃあどうしたらいいんだよ」
コ-ヒ-は相変わらず少し苦い。電熱器がコ-ヒ-を温める時間が長すぎるんだ。コ-ヒ-屋で上手いコ-ヒ-を出さなかったら何を売るんだよとか思う。言えないけど。
『子供への悪戯をやめて庭いじりでもしたら?』
「分かったよ。真面目に考えるよ」
無造作に机に置かれた車のキ-が少し揺れた。キ-を盗めば車は私のもの。でも特別欲しくない。
『憧れてるんじゃない?男に』
「だって男だよ」
『全く男らしくないよね』
「そういう意味ね。出来るよ」
『出来ないからそのナリなんじゃない』
『駄目な父親と結婚した可哀相な母親に反対した事は無いの?』
「あるよ。山ほど。この恰好だって母親は泣きたいはずだろ」
やっぱり頭の悪い男と喋るのは疲れる。ついでに躾されすぎた子供をみるのもうんざりだ
『それは、結果でしょ。もっと普通によ』
「あるって」
『悲しませた?』
「悲しませた。だから、悲しませたく無いよ」
『だから、言いたい事抑えちゃうんだ』
「普通の事だろ」
『あなたにとってはね。確かにごく普通だね』
「何が言いたいの」
『反対も出来ないからそうなるのよ』
「悲しませたくないのは普通だろ」
『悲しませたくないからって我慢しないのも普通よ』
「……じゃあ…」
私はたかしの言葉を遮った。
『愛されてなんかいなかったのよ』
苦いコ-ヒ-を三杯も飲む気にもならない。おまけに、この店の不味いコ-ヒ-を飲むのもうんざりだ。ブランデ-に火を灯してコ-ヒ-に入れてやろうかしら。
机を叩いた音が聞こえた。たかしだ。
「そんなこと。ない。絶対無い。」
『言いたい事を我慢した思い出は山ほどあるはずだよ。それらは証拠にはならないかな。あなたさえ望むなら喜んであなたを受け入れるはずだよ。あなた「自身」をね。
そろそろ帰ろうよ。』
たかしはぶつぶつ言っている。
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