男性についての話

11/12
前へ
/30ページ
次へ
「しょうがないよね」 こんな時思う。絶対に「そうだね」なんて言ってやらないと思う。そんな気になっても絶対に言わない。言いたくない。特に今は。 『そうだね。って言われると思ってるの?』 「じゃあどうしたらいいんだよ」 コ-ヒ-は相変わらず少し苦い。電熱器がコ-ヒ-を温める時間が長すぎるんだ。コ-ヒ-屋で上手いコ-ヒ-を出さなかったら何を売るんだよとか思う。言えないけど。 『子供への悪戯をやめて庭いじりでもしたら?』 「分かったよ。真面目に考えるよ」 無造作に机に置かれた車のキ-が少し揺れた。キ-を盗めば車は私のもの。でも特別欲しくない。 『憧れてるんじゃない?男に』 「だって男だよ」 『全く男らしくないよね』 「そういう意味ね。出来るよ」 『出来ないからそのナリなんじゃない』 『駄目な父親と結婚した可哀相な母親に反対した事は無いの?』 「あるよ。山ほど。この恰好だって母親は泣きたいはずだろ」 やっぱり頭の悪い男と喋るのは疲れる。ついでに躾されすぎた子供をみるのもうんざりだ 『それは、結果でしょ。もっと普通によ』 「あるって」 『悲しませた?』 「悲しませた。だから、悲しませたく無いよ」 『だから、言いたい事抑えちゃうんだ』 「普通の事だろ」 『あなたにとってはね。確かにごく普通だね』 「何が言いたいの」 『反対も出来ないからそうなるのよ』 「悲しませたくないのは普通だろ」 『悲しませたくないからって我慢しないのも普通よ』 「……じゃあ…」 私はたかしの言葉を遮った。 『愛されてなんかいなかったのよ』 苦いコ-ヒ-を三杯も飲む気にもならない。おまけに、この店の不味いコ-ヒ-を飲むのもうんざりだ。ブランデ-に火を灯してコ-ヒ-に入れてやろうかしら。 机を叩いた音が聞こえた。たかしだ。 「そんなこと。ない。絶対無い。」 『言いたい事を我慢した思い出は山ほどあるはずだよ。それらは証拠にはならないかな。あなたさえ望むなら喜んであなたを受け入れるはずだよ。あなた「自身」をね。 そろそろ帰ろうよ。』 たかしはぶつぶつ言っている。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加