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寝巻きに近いジャージにスエット、女らしいとは言えない。誰も見てしないだろう。墓地の幽霊さん以外は。
たかしは月極めの駐車場に置かれた軽自動車にキーを入れるとおもむろにエンジンを掛けた。
「いいぜ。乗れよ。なんだよ注射って」
『何の話?男言葉!キャー。男っぽいっすね』
「ああ。準備いいわ。さぁ乗って」
女言葉に変えたたかしの発言を尻目に助手席に乗り込んだ。
ミニカーを大きくしたようなブリキのようなアルミ機械が火を噴いた。
1時間もすれば目的地に着くらしい。
『それで、具体例にはどんな父親だったのさ。
重い話は苦手なんだ。吸うよ。灰はこの空き缶にいれるからね』
私はボンネット横に置かれていたタバコのケ-スからタバコを一本抜き取り火をつけた。
「はぁ…。車内禁煙なんだけどな。酒は飲んでたな。酒の力を借りて母親と喧嘩してね。
怒ると凄いの。顔真っ赤にしてタコみたいだったよ。」
煙りは車内を一回りすると、少し開けた窓の隙間から出て行った。
煙りの流れからみると、なかなかスピードは出ているようだ。ウ-マンリブって奴だ。おかまリブと言っていい時代ではない。少なくとも今は。
『ふ~ん。お父さんは子供からも馬鹿にされるなんて可愛そうだね。』
真面目に少しは聞いてやる事にした。
「だって仕方ないだろ。確かに母親も言い過ぎな部分はあるのかも知れないけど。駄目親父だぜ。ろくでなしだよあんなやつ。」
『タコみたいな顔になってきたよ。親父似かよ。』
私はたかしに注意をうながした。怒った人の相手をするのは好きじゃ無い。私が怒るのは割と嫌いじゃない。
「あぁ悪い。母親もそれをみて当然怒るわけ。正しい事言われてるんだから親父がきちっと受け入れる事が出来れば丸く収まるわけ。」
『……丸く…ねぇ』
タバコの火を缶の飲み口の内面に押し付けると、吸い殻を空き缶に入れた。
墓地は山の中腹にある共同墓地となっており、幾つかのお墓が見うけられる。
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