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「結婚した旦那が暴力亭主なんだってさ」
雲の流れが早い。雨が降るかも知れない。車は人の少ない道をゆっくりと走り出した。
「ああ、今は元旦那か、妹と結婚してるときに不倫した相手と駆け落ちしたとか。
女は確かあの高台の洋服店で働いてるよ」
『兄妹そろって不幸…か』
タバコは上手い。話は暗い。
「俺、いや私はまだいいよ。でも、不幸でないやつがいるのかよ、この世に生きて」
『いるよ。ここに』
ポケットからパチンコの景品でたかしが取ってきた飴玉を取り出した。
暗い話には甘い食べ物が似合う。
「ふん」
『ねぇ。お母さんはどんな人だったの?』
「あ?あぁ。愚痴はいうけど優しい人だよ。酷く不器用だけど。」
『不器用?』
たかしはハンドルを右に左に切りながら山道を下っていく、シフトをニュートラルにしないのが少し気になった。
「そう。不器用」
少し苛っときた。飴玉の効果も高くはなかった。
『でもさ、なんで父親の悪口ばっかりいうのかな。母親の悪口も言えないと客観的とは言えないよね』
「だって、あんな父親を許せるのは母親ぐらいだよ」
『母親にも問題があったとは考えられない?父親をそうなるように仕向けたって』
「どういうこと?」
たかしは喫茶店の駐車場に車を停車させた。
古い喫茶店だ、きっとマスターはパイプをくわえて髭を生やし客は少ない。
頑固なマスターはコ-ヒーにこだわる。水にこだわり、豆にこだわる。「最近はコロンビアから直接買い付けがしにくくなってね」とか言い出す。そんな店だ。多分。
店に入ると客が多く、主婦のたまり場となっていた。どこにでも割とよくある光景なのかな。
多分、最近のニュースや近所の噂話や旦那の愚痴でも言い合ってるんだ。
マスターは40代半ばの女性といった所か。
『あてがはずれた』
「えっ?」
『いや。こっちの話。父親は駄目にさせられたのよ。
それから、駄目な父親じゃないと母親と合わないのよ』
たかしはコ-ヒ-を二つ頼んだ。コロンビアのコ-ヒ-はメニューには載って無かった。
「どういうこと?」
『父親に愚痴を言うくらいなら、諦めればいいのよ。母親が』
「よくわかんないな」
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