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隣の女の子、紗耶も担任の黒田に怯えている様子はなかった。
黒田の話の内容は今日の日程はこれで終了、明日からの予定、学園での注意事項などだった。
「以上だ、今日は解散」
黒田が出ていくと途端に緊張が解けたように教室が騒つき始める。
初対面や見知った者同士でちらほら会話をしていた。
何話そう!?
悠貴は紗耶に声を掛けようとそんな事を考える。
「あなた、名前なんて言うの?」
だが話し掛けたのは悠貴ではなく、意外にも紗耶の方だった。
正面から目を合わせると、その瞳は冷酷で一切の感情が通っていないようだった。
だがそんなことはどうでも良いのか、思いもよらぬ出来事に悠貴は顔を非常にだらしなく緩める。
「信条悠貴!」
嬉しそうに答える悠貴とは真逆に、紗耶の表情に変化はない。
「兄弟とかいる?」
「うん!直貴っていうんだけど知らないかな?この学校の生徒なんだけど…」
悠貴の言葉に紗耶は納得したような表情をしていた。
何か頭の中で歯車が噛み合ったのか、悠貴の顔を見つめている。
「あの、桐生さん…?」
美少女に見つめられた悠貴は顔を真っ赤にしながら紗耶の名を呼ぶ。
「…あ、ごめんなさい…ちょっと用事を思い出したから、また明日ね!」
「…え?あ、うん!」
なんとも疑問の残るやり取りだったが、凍り付いていた紗耶の表情が僅かに笑顔になった。
それを見た悠貴は疑問などどうでもよくなっていた。
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