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2011/03/17
これは僕が聞いた話なんですけど、
あるところに仲の良い夫婦がいたらしいよ。
夫婦は毎月、記念日には家の近くの思い出の場所に行くらしいよ。
その思い出の場所は街を見下ろせる小高い丘で、どんなに忙しい時も必ず5分だけ、そこから二人で夜景を見下ろすのが約束らしいよ。
夫婦にとってそれが何よりの楽しみらしいよ。
夫婦は今月も、約束通りその丘に行ったらしいよ。
だけどそこに広がったのは、いつものきらびやかな街とは全く違う、小さな淡い灯りだけがチラホラついた薄暗い街だったらしいよ。
夫はがっかりして妻に言ったらしいよ。
「こんなに暗いと、気持ちまで暗くなってしまうね。」
そんな夫に、妻はこう言ったらしいよ。
「いいえ。今まで見た中で一番きれいな夜景だわ。」
そして夫の手を握り、こう続けたらしいよ。
「だって、このいつもより淡い街の灯は、誰かが誰かを思いやっている証しだもの。
今まで一番明るくて、暖かくて、優しい光だわ。」
これは僕が聞いた話なんですけどね。
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