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少し小高い丘の上から見下ろす景色。あの美しく活気に満ちていた長安の都は、見る影もなく荒廃している。
焼け崩れた建物、手入れされていない家々の庭。道には壊れた家財道具や壺が転がったまま、雨風に曝され薄汚れている。
愛した祖国はすっかり破壊されてしまった。
しかし向こうに見える山と河は昔と変わらずに悠々とそこに在る。
そして今やこんな都であるが、春になり草木が深々と生い茂っている。
手入れする者もいないのに。
庭木や道端の草たちは花をつけている。
その風景を見ても涙が流れてくるのだ。
かつての妻や子供達と過ごした風景が、重なることはないこの景色の中、ぼんやり思い浮かばれる。
悲しい! 会いたい!
この心の叫び。この別れへの恨み。
そんな思いはいざ知らず、響いてくるのは、鳥たちが鳴き交わす声、春を歌う声。
今はそれにも心を揺り動かされる。
戦いののろしは、三ヶ月もの間続いているのだ。
子美は、そっと胸に手を当てる。
――家族からの手紙は万金に値する。何事にも換えられない宝だ。
「今どうしている。皆達者か。私は――」
白くなった髪をかきむしる。髪はちぎれ短くなっていく。髪をまとめ冠にとめる簪は、もはやさせなくなりそうだった。
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