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男達は下卑た笑いを浮かべながら、少女に何事かをまくし立てる。
それが異国の言葉だったためか、それとも単に聞きとれなかったのか。
少女は首を傾げた。
サラサラと流れた甘やかな髪の下から、静脈が透けて見えるような白い項が露わになる。
男達を見つめる少女のスカイブルーの瞳は、狂おしいほどに澄んでいた。
男達が何のために少女を捕らえたのかは定かではない。
ただ、彼女の悲劇的なまでの美しさは、確かに男達の激情を掻き立てたのだった。
男のうちの一人が鼻息荒く、少女の手からグラスを奪い取り、それを乱雑に日溜まりの中へ投げ捨てた。
グラスは幻想のように儚い光を飛散させ、少女の目の前で粉々に砕け散る。
美しいものは壊れる瞬間まで美しいのだと、少女はこのとき初めて知った。
少女の体は、いとも容易く壊れされていった。
華やかな芳香を振りまいた蜜色の髪も。
奇跡のように傷ひとつなかった手足も。
甘酸っぱい未完成な体も。
純真なスカイブルーの瞳も。
穢れてしまうのは悲痛なまでに簡単だった。
彼女の体から流れる血の色は、少女としての純潔さそのもののように透き通った赤だったが、それもいつしか白くどろどろとした臭いものによって濁っていった。
この陰惨な場においてただ一つ、少女の唇から零れ落ちる意味の無い音色だけが、どんな鈴の音よりもどんな鳥の声よりも美しく悲しく玲瓏と響いていたのだが、その声もだんだん小さくなっていった。
自分が崩壊していく音を遠く聞きながら、ふと、少女は思った。
もし、この場に"誰か"がいたとすれば、"何か"が変わっていたのかしら、と。
"誰か"とはいったい"誰"なのか、いったい"何"が変わったというのか、それは彼女自身にもわからないのだけれど。
その一瞬だけ、少女は素敵な夢を見た。
こうして、ヒーローが不在のまま、物語は幕を閉じる。
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