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一瞬のまばたきの後、リオンの右側の空間がわずかに歪んでいることに気付いた。
けれど歪みはすぐに元に戻り、代わりにありえない光景が視界に飛び込んできた。
剣の柄を両手で握って通常の構えに戻したリオンの隣にいるのもまた、同じ構えで剣を握るリオン。
――リオンが2人。
頼もしくもあり、恐ろしくもあるその光景。だが不思議なことに、2人目のリオンが現れた時の魔力がほとんど感じられなかった。魔法を発動したにしては魔力が少ない。故にその線は薄い。
となると、これがリオンの武器の能力か。
「ふっ」
短い呼吸を発した時には、そこに本体と思われるリオンの姿はなく、右側に立っているリオンが剣を構えているだけ。消えたリオンの姿はガーゴイルの向こう側、逃げようとしていた進行上にあった。
苛立ちか焦りか。回り込んだリオンを目にしたガーゴイルが喉を震わせる。その瞬間、残っていたもう1人のリオンが動いた。
姿勢を低くし、剣を右手に地を駆ける。大した速さではなかったが、ガーゴイルの虚を突くには十分。走りながら剣の切っ先を翻し、敵の前で急止した勢いを使って下から上への左斬り上げ。
不運なことに、振り向こうと半身になっていたガーゴイルはその斬撃を左腕に受けてしまい、肘から下がぼとりと地に付いた。
思わず耳を塞ぎたくなるような悲鳴を上げるガーゴイルの奥で、大きく剣を振りかぶるリオン。その瞳に宿るのは深い沈黙。頭上でピタリと止まった剣は、何の躊躇いもなく振り下ろされた。
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