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「おいおい……」
ガーゴイルの身体に空いた穴の向こうから、両手を合わせて頭を下げるシンの姿が覗く。
オレは呆れを含んだ息を漏らしながら3歩前へ出ると、黒龍を左肩の位置まで振りかぶった。
丁度いい。コイツの能力を試すとするか。
炎は目前。けれどオレは焦ることなく、黒龍にそれなりの魔力を流し、左から右へと水平に刀を振るう。炎に触れた瞬間、わずかながらにズシッとした重みが腕に伝わったものの、気にするほどのことでもなかったために構わず振り抜いた。
結果、牙を剥いていた炎は目の前から姿を消した。それは斬り裂いたわけでもなく、吹き飛ばしたわけでもない。言葉にするなら霧散したという表現が正しいだろう。さっきまでそこに存在していたという熱がオレの頬を撫でていった。
「へぇ……。いいじゃん」
振り抜いた黒刀の刃に視線を走らせれば、思わず笑みが零れる。知識として知っていた情報は行動することによってより確実なものとなった。
〈無効化〉。それが黒龍に具わっていた能力だった。魔力が込められているものを打ち消すことができるらしい。ただ、込められた以上の魔力を黒龍に流さなければならないことや、衝撃は打ち消すことができないなどの欠点もある。前者に関しては無限の魔力があるから心配ないが、後者に関しては使い所を考えないといけないな。
しばらく黒龍を眺めた後、手中から消して前へ向き直る。そこにはいるべきはずの敵はおらず、黒い焦げ跡が残っているだけだった。
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