平穏な日常

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 敷地が広い、寮が大きい、と来れば、当然のように部屋も豪華だ。リビング、キッチン、トイレ、風呂、寝室。部屋はこれだけだが、それでも1人には勿体無さ過ぎるほど広い。家具も全て揃っているし、ソファーなんて何故か2つもある。  とりあえずブレザーを脱いでソファーに放り投げ、ネクタイも外し、シャツも脱ぐ。Tシャツとズボンだけの状態でもう1つのソファーに飛び込んだところで、オレの頭に凛とした女性の声が響き渡った。 《そろそろ学園は終わったかしら? 任務よ、クラッド》 「っ!」  湧き上がってくる怒りを堪えながら、ゆっくりと身体を起こす。狙ったように人の睡眠を妨げやがって……。  身体を起こしたことで、Tシャツの首元から銀色のチェーンが零れ出る。それに通されているのは複雑な記号が刻まれた金色の指輪。魔道具(マジックアイテム)と呼ばれる代物だ。  さっきの声もこれの効力。念話という、離れた相手と頭の中で会話するために必要な道具だ。これを持っている者同士で念話ができる。指に嵌めるのは恥ずかしいので、オレはネックレスとして身に着けている。 《行けばいいんだろ、行けば》  頭の中で念話の相手に愚痴を零し、しっかりと立ち上がる。服装はこのままでいいか。  意識を集中すれば、心臓近くから温かい力が溢れてくる。それを身体全体に行き巡らせ、口を開いた。 「【転移】」  瞬間、浮遊感を引き連れ、オレはその場から姿を消した。  
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