波乱な非日常

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「密売人の身柄の確保よ」  けれど、その予想はあっさりと裏切られた。 「密売人……?」  てっきり魔物の討伐に行かされるものと覚悟していたオレは呆気に取られる。だからこそ、その任務内容に興味が湧いた。 「マジックエンハンサーの密売が目撃されたのよ。密売人の数は6人。彼らは数十分前にシルメシアを出たわ。アンタにはその6人の追跡と拘束を頼みたいの」 「なるほど。だからオレなわけね」  マジックエンハンサー。一言で言ってしまえば、魔力増強剤。普通の魔力増強剤は自力で作ったり市販で売られたりしているが、マジックエンハンサーは効力が違い過ぎる。服用すれば、通常の5倍にも魔力が増加する。  だが当然、そんな薬には副作用がある。異常な魔力増強はやはり異常ということなのか、一度服用すれば魔力の奔りが鈍くなり、更には寿命まで縮んでしまう。故に、それの使用は禁止となった。  しかし使うなと言われれば使いたくなるのが人間だ。そんな物好きのために裏では高値で売られているのが事実。だからギルドは常に目を光らせている。  そして、そんな物を持っている者が自身にも服用している可能性は低くはない。万が一服用していれば簡単に捕まえることはできないからな。 「んで、そいつらはどこに向かったんだ?」  頭の中でシルメシア周辺の地図を作りながらフィアに訊ねる。上手くいけば先回りできるかもしれない。 「尾行していた者の報告によると、彼らはリディルの森に入っていったらしいわ。となると、向かう先はラーミアね」  ラーミア。各地の商人達が集まって店を出し、旅人や旅行者で賑わっている市場の街。確かにリディルの森を抜ければ最短ルートで着くことができるな。 「じゃあ行ってくる。取引相手の方は任せたぞ」  フィアが頷いたのを確認し、オレは再び姿を消した。  
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