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「ありがとう、でも……」
「無茶はするな、ですよね。わかっています」
「……」
先に言葉を言われて、にこるが寂しげに微笑んだ。
彼にその微笑の意味はわかりかねたが、それもつかの間、一瞬にしてリコリスの回りがざわついた。
「出陣せよ」
重く響く声。
火の粉が上がって、瞬く間に辺りが火の海となった。
「っ」
一瞬の魔術の規模に、彼が息を呑む。だが、彼は驚きと同時に、自分の内なる力が震えるのを感じ取った。
火の海の中ににこると佇み、彼は漠然と、リコリスと呼ばれた赤い女と自分が同類なのではないかと感じていたのだ。
「従え」
響いた声に呼応して、炎が形を作る。そこに現れたのは、炎で作られた騎馬隊だった。
「見事だ」
呟くようにリコリスの実力を褒める。彼は滅多に人を褒めることはしないが、それほどまでにリコリスの魔術は見事だったのだ。
自分のことのように満足げに笑みをたたえているにこるに促されて、炎で出来た馬に乗り込む。
不思議とそれは熱くない。
リコリスの合図で馬が走る。
彼の家へと向けて。
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