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*  深く眠る、彼の力が波打つ。  夜の森を駆け抜けた先にあった彼の帰るべき家は、半壊していて、なおかつ当たりは血とこげたにおいが広がっていた。  よじれるほどの痛みを胸に感じ、彼は歯を食いしばる。  現状から目を背けたくなる。  半壊した彼らの家には、彼の愛した仲間の死体がご丁寧にはりつけられていたのだ。  リコリスの魔力の元動く騎馬隊の炎のおかげであたりは見回しやすくなっている。 「ひどい……」  にこるが声をあげた。 「クソ……」  うめく阿修羅。胸のうちに燻る怒りが、段々と燃え滾っていく。  真っ暗闇に突き落とされたように、彼は底辺を感じ取った。  そこから這い上がってきた想いは唯一つ。許せない。殺してやる。といった、憎悪の念だった。 「阿修羅、だめよ」  腕に彼女の指先が触れて、彼は無意識のうちにそれを振り払っていた。  反射的ににこるを見ると、彼女はまっすぐと彼を見つめていた。 「阿修羅、自分を保って。あなたが暴走したら、止められないかもしれない」  静かな冷水のような声。  裏切った側近の蘭を思い出し、彼の中での怒りがさらに火花を散らす。 「約束して」  だが、そんな怒りも一瞬で冷めてしまうほどの強い意志のこもった声が、響いた。 「何をだ」  低く問うと、彼女は一瞬たりとも目を離さずに言った。 「殺しはしないこと」  なんだ、そんなことかと彼は思った。 「それならさっき聞いたよ。バカにしてるのかい」  ふっと敵意に満ちた声で言うと、にこるは「いいえ」と言った。 「……、来ます」  リコリスが言った。にこるはようやくそこで彼から目を離した。  彼も目を離して、突如現れた気配の方へ目をやる。 「こんばんは」  怪しげな笑みをたたえた軍服の優男が、化け物を背中に彼を見ていた。  
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