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――そうだ、冷静になれ。 ――俺は、鬼頭だ。  目を閉じて、風を感じる。  風。それは、彼の中に宿る力を小さく呼応させた。目を開けて、小さく息を吐く。  それから彼は足を踏み込んだ。 「出陣せよ」  背後から馬の嘶きと、ごう、という音が響いてその場の温度があがった。見事なまでの赤に、呆ける軍人たち。  彼の刀の示す魔術による風が踊り、炎がそれに呼応する。まるで長年背中を預けてきた相棒のごとく、リコリスと彼の戦術はぴったりと息が合っていた。  ガキン、と音がして、彼はもう一本の刀を抜いた。うけたのは蘭の刀。蘭の目がぎらぎらと光る。 「油断したな」  背後から声があがったが、どこか冷静な自分を、彼はどこか遠くから感じ取る。  ゴリ、という重い音がして、背中にトン、と人の体温が当たる。さらりと流れた栗色の長い髪。にこるだということは確認するまでもなかった。  息を呑むような美しく無駄のない動きで、リコリスが大勢いる軍隊と人形を蹴散らす。そこに殺気はあれど、決して人の命を奪うことはしなかった。  だが、まだ彼同様殺さない戦いに慣れていないのか、力の加減がうまくできずに苦戦している部分もあるようだった。
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