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「いやな言い方をしないでいただきたい。これは国を守るためにしているのだ」
ヴィンセントの声音が少しだけ固くなった。
「国を守るため……?」
綺麗ごとだ、と彼は心中で吐き捨てて終えた言葉を、にこるは反芻した。
「こうやって虐殺することが、国を守るためだというの」
その言葉に怒りはない。
「そうです。お嬢さん、人を殺さずして、正義なんて語れないんですよ。見れば貴方がた、全て気絶させるだけではないですか」
「鬼頭、貴方の力はそれだけではないはずだ」
蘭が口をはさむ。
その声音は、少しだけガッカリしているようにも、期待しているようにも感じ取れる。
「甘いですね。これではまた我々は同じことを繰り返す。愚かで、甘ったるい環境で生きてきたのでしょうね」
嘲るように、ヴィンセントが言った。
「にこる……」
リコリスが呟いた。
じりじりと、軍や蘭からの気が迫ってくる。余所見をしている余裕はない。
「……なら、その甘ったるい虚言で貴方達をとめるわ」
迷いのないまっすぐな言葉に、思わず振り返ってしまった。
気の散った彼に、ここぞとばかりに蘭が飛び込んでくる。だが、それをリコリスの形成した炎の騎士が遮る。
「こっちだ」
リコリスの声があがって後ろに飛ぶ。着地した瞬間、三人を取り囲むように炎の騎士が壁を成していた。
「どうするんだい。何か考えがあるんだろう」
「リコリス」
気の抜けない緊張感の中、変わらぬ声音でにこるが言った。
「わたしが止まらなくなったら、名前を呼んで」
「……」
「わたしを、止めてね」
寂しげな声につい、にこるの方を見てしまった。
瞬間、ぐいっと襟元を掴まれて、ふわりといい香りが鼻を掠める。
唇に柔らかい感触が押し付けられて、それがくちづけだと理解する前に彼女は離れた。
「目覚めよ」
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