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「おおーいっ、蘭さんが帰ってきたぞ!」  戸口にいた見張りの奴が声をあげた。ギャイギャイと騒ぎ立てる連中に、彼の眉間に皺が寄る。 「喉をつぶされたくなかったら、黙れ」  低くうめくようにとどろく彼の声に、騒ぎ立てていた空間が一気に冷える。  人の間を割って入ってきたのは、黒髪を綺麗に結った長身の男だった。 「戻った」  冷淡な声で、蘭と呼ばれた男が言った。その声量はわずかだが、ぴしゃりと冷水を張り巡らせたかのように、その場が静まり返る。 「無事でなにより。報告を」 「鬼頭。少し外に出よう。話がある」 「わかった。お前ら、盗み聞きはするなよ」  そう言って外に出る。  ひんやりとした風が彼の頬をかすめる。 「それで?」 「西から軍が攻めてくる。狙いは貴方の力だ、鬼頭」  冷水のごとく、清らかな声音で蘭が言う。あの吹き溜めの中でも際立って上品な蘭は、かつて鬼頭の右腕として血を流した同胞であり、今現在彼の側近という位置に収まっている。 「は、あんなやつらにくれてやるか。それに、俺が易々とあいつらに捕まると思ってるのかい」  嘲りながら彼は余裕の笑みを浮かべた。 「貴方の力があれば、戦争に勝てる。国は本気だ。いまや貴方は国を敵に回した」  小さく息を吸い込んで、振り返る。  ガキィン、と、刃のぶつかる音が響いた。
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