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 彼の表情が、固く結ばれる。  せめて嘘で、茶番であってほしいと、彼は背中を預けてきた側近であり、数少ない友である蘭を見つめる。  だが、蘭の瞳に映るのは煌々とした敵意と殺意。そこに少しだけやさしさが滲んでいるが、それは自分は貴方を殺したくない、だから降伏してほしいという意味なのだろう。  ぎち、と彼は歯を食いしばった。苦渋の選択である。  彼の手から、徐々に力が抜ける。  悔しさで、胸がねじれそうだった。だが、取り囲んでいる力は恐ろしいものだ。  魔力を融合させて作った、兵器。  戦争に使われるはずのそれが、こんなちっぽけな吹き溜まりに向けて用意されている。 「蘭……、」 「ちょっと待ちなぁ、鬼頭!」  声があがった。はじかれたように声のした方を、彼と蘭の双方が見た。 「蘭、てめえふざけんじゃねーぞ。鬼頭に預かった恩をあだで返す気か!」  似た批難の声が上がる。 「……」  蘭の瞳から、一切の優しさが消える。殺戮を繰り広げるとき、蘭はきまってこの目をする。 「鬼頭、指示を」  誰かが重い声で言った。 「やめろ。俺は、」 「てめえらぁ、鬼頭を死守しろ!」 「!」  どこかであがった声に、ちっぽけでぼろい建物の天井を、大砲が轟音を立てて破った。  それを合図として、人が溢れる。中にあったあらゆる武器を駆使して、彼の部下が雄たけびをあげながらあふれ出てくる。  それに呼応するように、軍服を着た軍人と、兵器である人間が顰めていた身を戦場へと投げ捨てていく。 「っ」  彼の呼吸が、一瞬止まった。  目の前の惨状。はじまったばかりの戦で、もはや血が流れている。それは部下の血もあれば、相手の血もある。 「やめろバカども! 死にたいのか!」  ぼわん、と不思議な音を立てて、煙があたりを撒いた。そばにいたはずの蘭が、舌打ちをして距離を取る。 「鬼頭、逃げてください」  三人の男が、彼の体を囲んで外に向かって武器を構えている。 「やめろ。無駄死にするつもりか」 「逃げてください」  焦る彼の心情などお構いなしに、囲んだ男は強い目をして敵を睨む。  汚くて、醜悪で、悪いことだってたくさんした。人殺しの前科ばかりある悪党の、行き着いた吹き溜まり。  頭の悪い人間は嫌いだ、と彼は心中で呟いた。
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