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 賢い人間は、自分が生きながらえる術を見切っている。  だが、頭の悪い人間は、それができない。人のために、何か大切なもののために、簡単に命をかけてしまう。 「羅蝶、鬼頭を!」  低くうめくように誰かが言った。  ぐわん、と彼の体が持ち上げられる。 「貴様……」  羅蝶は側近のもう一人。  帰っていたのか、という声を、彼は飲み込んだ。羅蝶の体は、傷だらけだった。  きっと羅蝶は国にそむいたのだ。蘭と違って。  冷や汗が、彼のこめかみを伝った。さっきから嫌な動悸が彼を支配している。 「鬼頭としての命令だ、全員逃げろ!」  半分悲鳴のごとく、彼は叫んだ。それでも奴等は、逃げるどころか喜んで身をなげうつ。血が流れた。もう既にたくさん死んだ。 「貴方は生きなくてはいけない、鬼頭」  羅蝶が苦しげにうめくように言って、彼の体を強制的に引っ張る。 「全ては鬼頭のために! 鬼頭は仲間のために!」 「全ては鬼頭のために! 鬼頭は仲間のために!」 「俺たちは鬼頭のために! 鬼頭は俺たちのために!」 「全ては鬼頭のために! 鬼頭は全てのために!」  叫びながら、一人、一人と血を流して地面に倒れる。それでも彼の仲間は怯まない。口に笑みさえ浮かべて、武器を振るう。  全ては彼のために。  彼は仲間のために。  ならば、仲間を失った彼は、どうすればいいのか。彼は羅蝶に引かれながら、そんなことを思った。
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