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「やめろ……」  喧騒にかき消された彼の言葉。  羅蝶が彼を逃がそうとするが、行く手には敵がふさがる。 「やめろ、羅蝶!」  叫ぶ彼の目の前を、羅蝶の背中が遮る。  クソ、とうめいて、彼はとうとう刀の柄に手を伸ばした。 「阿修羅、貴方がその刀を抜けば、貴方はきっと後悔する。すぐそこにあれがあるのだぞ」 「貴様、蘭!」  獣のごとく、羅蝶が吼えた。  いつのまにか目の前に立ちふさがった蘭は冷静に、人を殺す時の目をして佇んでいた。 「貴方は生きなくてはいけない。逃げてくれ、どうか」  そう言って、羅蝶は小さくうめくように呪文を唱えた。 「羅……」  彼が名前を呼ぶ前に、彼は物理的に飛ばされた。  何が起きたか理解する前に、意識が朦朧とする。強い衝撃が体を打って、彼の息が一瞬詰まった。  そこで彼の意識はとんだ。  やめろ、とうめきながら、彼は必死に手を伸ばす夢を見る。
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