1: 逃避行の日々

8/10
前へ
/114ページ
次へ
砂漠程逃げ隠れるのに厄介な場所はない。見渡す限り砂と石の転がる荒野。身を隠せるような物陰など滅多に見つかるものではない。只々逃げ続けるしか出来はしない。 幾ら旅に慣れているとはいえ、俺は一介の民間人に過ぎない。どのような環境においても自分の最大限の力を発揮できるように訓練を重ねた軍人でもなければ、奴等のように焼けるような暑さの中に生まれて、この環境こそが慣れ親しんだものであるという訳でもない。 俺は無属性者だ。だが無能力者ではない。特定の能力獲得に長けるような傾向こそ有していないが、それでも能力を有する事は出来る。例え全属性者であろうと無能は掃いて捨てる程いるし、逆に無属性者でも能力持ちはいる。 とはいえ、属性も有利性の一因だ。奴等炎属性者にとっては、この環境は自らの能力を引き出すのに都合のいいものである。恩恵など何一つ享受出来ない俺とは違って。無属性の俺に炎属性の追撃者、この場においては最悪の状況である。 奴等は容赦なく火焔攻撃を仕掛けてくる。それを俺は必死に避ける。苦心する俺の背後には、気味の悪い笑みを浮かべ涼しい顔で追いかけてくる追跡者。この状態でまともにやりあったところで、俺に勝ち目などない。 ――最早、最終手段に出るしかないか。 タイミングを計る。気は抜けなかった。失敗したら全身業火に包まれて骨まで燃え尽きる事だろう。火焔使い共の追撃は未だ衰えず、それどころか尚も激しさを増す一方だ。だが、俺に出来る反撃はこの一手しかない。俺は覚悟を決めた。
/114ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加