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雲一つない空は澄んだ青緑色に染まり、頭上に輝く真白の陽光は周りにあるものを焼き尽くさんとばかりに燃え盛っていた。空気は乾燥し、汗は掻く端から乾いて消えていく程である。
ここはクオン砂漠、火の国ミ・クオンの国土の大部分を占める高地内陸砂漠だ。見渡す限り見えるものは赤い岩と薄黄色の砂埃ばかり。草木の生えたオアシスはそう簡単に期待できるものではなく、それどころか苔の一株を見つける事すら、長く歩いて漸く日に片手で数える程度しかない。只々だだっ広い荒地でしかないのである。
かつてはここも行商人が多数往来する中央交易路の一通過地点としてそれなりに賑わっていたというが、文明が進歩して交通も発展した現代世界においては、最早廃道と形容するだけでも贅沢と言えかねない様相である。そのような所をわざわざ歩いて旅する者など、余程の物好きか訳ありの者くらいであろう。
そんな場所を走り抜ける俺は、別段廃道ハイカーの趣味を持ち合わせている訳ではない。俺はツゲフマ=アイジュス・ミ・ロクーネ、無の国ミ・ロクーネ出身のしがない中年男児だ。ジャケットにコートを羽織るという砂漠の旅には相応しいとも言い難い格好ではあるが、これも仕方のない事情があってのものである。
白状してしまえば、俺は逃亡者である。それも、物騒な大事に巻き込まれている最中の、だ。
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