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「……くっ、しぶてぇ野郎共めが」
背後からは火焔使い共が空中を滑るようにして追い掛けてくる。連火を鞭の如く振るいながら、ある者は焼石の礫まで投じつつ俺に迫ろうとしてくるのだ。炎属性者(レカ・ペント・クオン)達に伝わるこの戦闘術を自在に操る奴等だ、相当な実力者である事は想像に難くない。
辛うじて速度は拮抗したままに保てているが、長年このような生活の中にいて修羅場を掻い潜り続けてきた俺でも、こう雨霰と猛攻撃の降り注ぐ中にいて平気でいられる訳もなく、苦戦を強いられていた。厳しい状況を誤魔化そうと悪態が口を突いて出て来たところで、こればかりは仕方なくはなかろうか。
奴等が只の破落戸(ごろつき)であればここまで苦労はするまい。問題なのは、奴等の掲げている名が『ティオ・ハーグリップ』である、という点なのだ。
国際秘密結社ティオ・ハーグリップ。十数年前から表社会に名前を知られるようになったが、世界各地で奴等絡みの事件が頻発しているというのにどの国もその実態を断片的にも把握し切れていない。
昔は小規模なテロ活動の裏で一枚噛んでいる程度の存在であったが、徐々にインフラ破壊による都市機能の寸断、要人拉致による統治機構への脅迫、そして政府機関への直接攻撃も行うようになってきた。最近では都市住民を扇動して、住民自身の手によって暴動と破壊を行わせようとする者まで現れたというのだから厄介な話である。
そして――国家規模のテロリズムと比べればあまりにも小規模な話だが――俺がこのような逃避行をせねばならない状況に陥ったのも、そもそもはティオ・ハーグリップの所為なのである。
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