1: 逃避行の日々

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もうかれこれ十年は前になるだろうか、当時俺は大陸最北端の国ミ・ロクーネにあるアンケ・サルマという小さな村で開業医をしていた。お世辞にも名医とは言えないだろうが、外科や内科といった大抵の医術は心得ており、誤診など今の今まで一度もした事がない。少なくとも藪呼ばわりされる筋合いはないだろうと自負している。 あれは突然だった。奴等はスーパーの搬送用トラックに偽装した車両で二十人程乗り込んできたのだ。手慣れているようではなかったが、全員が銃で武装していた。 突然の武装集団の攻撃に、対抗する手立てなど村にはなかったのだ。村には警察部隊の駐留もなく、能力者で抑えようにも、唯一俺が手術用にひとつ身につけていた以外誰一人として能力者はいなかった。 このような状態であったから、陥落はあっという間だった。たちまち村長は射殺され、名家は軒並み荒らされ、富裕層は監禁され、貧乏人で体格のいい者は引っ捕らえられて隷従を余儀なくされてしまった。 侵攻からたった半日、村は奴等の傀儡になっていた。呆気ない占領であった。 奴等が侵略をするにあたって、まず優先的に狙ったのは役所の役人や学校の教員、そして医療機関の人間といった、確実に高等教育を受けたであろう人間であった。当然、医者であった俺も対象に含まれていた。 自宅の診療所にいたところ、武装した覆面の男達が数人乗り込んできたのだ。扉は破られ、待合室もだいぶ荒らされたようであったが、幸いにもその時は昼休み中で患者も看護師もおらず俺一人しか診療所にはいなかった。 奴等は俺を見つけるや否や、所持していた銃をこちらに向けてきた。 「我々はティオ・ハーグリップの者だ。抵抗すれば命はないぞ!」
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