1: 逃避行の日々

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案の定、奴等の大多数はそこにいた。門前の見張りを能力で沈黙させ、俺は庁舎に単身乗り込んだ。相手も応戦しては来たが、俺の能力は相手がこちらを見さえすれば通用する。一人、また一人と連中は伏していく。 そして、村長室に奴等の親玉がいた。手下があの程度とはいえ、統括する人間が非力だと侮る訳にはいかない。中の様子を伺っていると、どうやら向こうは誰かと電話をしているようだった。 「……ええ、もう少しで制圧に成功しそうです」 どうやら、強盗団はティオ・ハーグリップに使われているだけだったようだ。電話が終わると、奴は声一つなく足音を立ててこちらにやってきた。奴は単身だ、そう確信した俺は、戸が開くとともに奴に声を掛けた。 「おい」 「な、だれ……」 皆まで言わせなかった。奴がこちらを向いた瞬間、即座に能力を使ってやった。すぐに奴の目は虚ろとなり、その身は床へと崩れ落ちた。呆気なかった。奴も無能力だったのだ。 俺は息のあった人々に応急処置を施した。既に息を引き取った者も数人いたが、それ以外は急所を外して軽傷であった。 翌日、中央から保安隊の対テロ部隊がやってきた時、既に悪党共は俺の手で警察署の拘置所に繋がれた後だった。きっと村にはより厳重な警備が施される事だろう。俺よりももっと専門的な訓練を受けた能力持ちの警察官が着任するのかもしれないし、保安隊が暫く駐留するのかもしれない。 だが、俺はそれを見届ける事はなかった。 俺はティオ・ハーグリップの実働部隊を壊滅させた。恐らく向こうは馬鹿でない以上俺をすぐ突き止めるだろう。それが警察や軍の仕業であったならばこれ以上手出しをせずに様子見という可能性もあるだろうが、俺は只の医者で素人だ。本気で封じようと思えば簡単に封じられるに違いない。 俺の能力は正体さえ知れてしまえば対処法なんて簡単に見つかってしまう。口封じの方法など幾らでもあるだろう。ここに残っていたところで、緩慢に死を引き込むだけだ。
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