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月は隠れている。街灯もない。
そんな暗がりの中、『チープ・レイク』の冷え冷えとした墓場には二つの人影があった。
男が二人。
一人は立っている。
一人は座っている。
一人は無表情。
一人は目を見開いている。
立っている一人 ――命が感じられない程に無表情な彼は、
もう一人の男に向かって、
剣の刃先を突き付けている。
ほんのりと光を放ちながら、刃の先は真っ直ぐ額に向いていて、座っている――腰を抜かした一人の表情を照らしだすようだった。事実――男にはそう見えた。
細身で無駄な意匠のないそれは、針のような刀だった。
『彼』のような刀だった。
「…きみ、名前は?」
身動き一つせず、感情の一欠けらすらも見せないで、『彼』は問うた。
刃の先も男の額に向かったまま動くことはない。
男は恐怖に目を開いたまま、荒い呼吸のままで、向けられた刃先をただただ見つめる――それしか出来なかった。
まばたき一回、指先一つでも動かしたら――『彼』の『問い』に答えたが、それが最後なのだというように。
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