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「ダメだよ…助からない」
薄暗く広い場所で、一際に弱々しい声が響いた
ズズーン… パラララッ…
地鳴りのせいで小刻みに震える建物は酷く荒れ、辺りの天井から砂の様なコンクリートの粉塵が崩れ落ちている
裸の電球が大きく揺れながら点滅し、そのせいなのかこの部屋を見渡すことが難しい
しかし部屋の中央で、照らされては暗闇に消え、また照らされては消えていく二つのシルエットが映って見え、その周りは天井から崩れ落ちてきた瓦礫が散乱していた
「お前……それじゃ意味ねぇって!!」
悲しく聞こえるのは男の声なのだろうか、諦めきれない切実な想いを、傍にいる相手に伝えようとしている様だ
…ズズーン…ズハーッ
「…」
沈黙の頭上、それは遠くから聞こえる破壊的な音で、二人が地下にいることを唯一伺い知れるのだろう
そして何故か、その場所に居る事を許す余裕はあまり無いように感じさせられてしまう
「良いのよ…… これで… …私はここで終わってしまうけど…ユータは まだ生きて… 」
「何でこんな事に… 俺は…………クソッ!ダメだこっちを見てくれ!目を閉じるな!…マナ!!」
…………
ふと揺れが止み、辺りが静まり返る
灯りが二人をしっかりと捉え、男は地に膝をつき、横たわりそうな女を抱えていたのが、今になってわかった
「…ここからは…
あなたの… …これ
あなたに渡しておくわ…………」
男は力無く持ち上げた手にある物を受け取ると、その手を握りしめた
「………ごめんね…」
謝られた理由は男にはわかっていた、返す言葉を用意していてもそれが口から出ていく事はなく、ただ女を強く抱きしめる
不意に辺りは静かになっていた
さっきまでの戦場と変わりない豪音は嘘のように消え去り、いつまでも残酷ともいえる静寂が包みこむ
「…………」
声にならない叫びを天井に向けて、儚く力尽きた女を抱きしめ続ける男
消えかけた電球だけが、か細くチカチカ光り
悲しく照らし続けていた
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