ディーヴァ

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本当に小屋みたいな家だと思った。 玄関とは名ばかりで、段差など無く、僕も彼女も、靴のまま家に入っている。 家の中に土足で入るのは、初めての体験だった。 じゃりじゃりと靴の裏を通して砂の感触がする。 「ごめんね、少年。シャツが濡れてるわね。椅子に座ってて。熱いコーヒー淹れるわ。コーヒー飲める?」 「はい」 「あなた、近くの高校の生徒ね。時々見かけるわ。何年生?」 「3年です。あの……最近引っ越してきたんですか?」 「そうよ。あっ、そうだ。君、名前は?」 「藤田……秋良(あきら)です。秋に、良いと書いて…」 「そう。良い名前ね。わたしは、サラ。そうだ、少年。 びしょ濡れだから、お風呂入って。その間に服乾かしてあげる」 「いや、いいですよ」 僕は、慌てて言ったが彼女は、遠慮しないの。と言い切り、奥のバスルームとおぼしき部屋のドアを開けた。 僕は小さくため息をつき、どうしてこうなったんだろう。と考えながら、部屋を見回した。 バスルーム以外に別の部屋など無く、この部屋が全てを兼ねていた。 キッチンと……窓際にベッド。 そして、真ん中に、この丸テーブルと椅子が2つだけ。 荷物らしき物と言えば、ベッド脇にある大きな四角い鞄だけだ。 散らかってると言ってたけど、しかし、物が無いだけじゃないかと思った。 本当に引っ越してきたばかりのようだ。 そう思っていたら、コンロのヤカンが、しゅんしゅんと音を立てはじめた。 ほぼ同時にバスルームのドアが開き、彼女は慌ててコンロの火を消した。 そして、カップを2つ用意して、インスタントコーヒーを作った。 それを丸テーブルに置くと、代わりに紙袋をキッチンに置き、僕の前に座った。 「ごめんね、インスタントで」 「いえ……」 「いまバスタブに、お湯ためてるから少し待ってね、まだシャワー使えなくてさ」 と、彼女は少し困った顔をした。 「いえ、あの……本当にお風呂はいいですから」 「何言ってるの。あっ、そうか。ごめん、ごめん」 彼女は、そう言って席を立ち、おもむろに、脱いで。と言って、ベッドに向かった。 混乱して、固まる僕に彼女は、言った。 「何を想像してるの、性少年。 とりあえず着替えて」
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