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「あ……」 まさか、そんな簡単に了承してもらえるとは思わなかった僕は、我ながら間抜けな声を出した。
「何してる?15分で支度しろ」と、父さんは微笑んだ。
「わかった!」僕は言うが早いか、自分の部屋に飛び込んだ。
なるべく大人っぽい感じになるように、薄いストライプの入ったジャケットを着込み、ダークな色合いのパンツを選んだ。
髪をアップしてスプレーで固め、唯一持っているサングラスを取った。
そして、父さんの元へ行き、聞いた。
「父さん、何歳くらいに見える?」
ベッドに腰掛けた父さんは、僕を見て微笑んだ。
「そうだな、まあ二十歳くらいには見えるかな」
その答えを聞いて、僕も微笑んだ。
階下に行くと母さんは、お茶を飲んでいたが、僕達の格好を見て、眉毛を吊り上げた。
「今日は秋良を連れていく」 父さんは、きっぱりと言った。
母さんは、ますます眉を吊り上げ、ヒステリックな声をあげた。「な…なに言ってるんです!秋良は、まだ高校生ですよ!しかも、受験生なのに!」
そんな母さんに父さんは落ち着いた口調で言う。
「関係無い。わたしが連れて行くと決めたんた。行くぞ、秋良」
「う…うん」 僕らは、まだ何か言いたそうにしている母さんを尻目に玄関を出た。
そんな背中に母さんの、呟きの様な声が聞こえた。「みんな好きにすればいいんだわ……」
僕は急に母さんが可哀想になった。 父さんは落ち着いた口調で言ったが、その表情は見てない。と言うか……いつもの父さんとは別人のようだ。
修羅場を覚悟していたが、父さんの一言で母さんが引くなんて思いもしなかった。
どんどん歩く父さんに、僕はサングラスを掛け付いていく。 どうやら目的地は、米軍基地のある港付近らしかった。
あまり治安が良くないと有名で地元の僕らも、あまり近づかない。
「父さん……この辺やばいよ」
「気にするな。わたしの側にいろ」と、父さんは事も無げに言う。 まったく今日の父さんは、まるで別人の様に頼もしかった。
周囲には倉庫群が増え、外国人の姿が目立つようになってきた。 タンクトップ姿の米兵が、暗がりで金髪の女性とキスしている。
僕は前を向いたまま、視線をあちこちに走らせた。
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