底には僕と

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その「小野吾聡」とかいう男との出会いはあまりにも唐突だった。 それが偶然だったのか、はたまた最初からそうなる運命だったのか、俺には分からない。 そもそもそんなことは心底どうでもいい話だ。 とにかく俺の人生がコイツによって¨ぶち壊された¨ことにかわりはない。 「‥で、アンタはこれからどうすんの」 真っ暗な空間をひたすら眺め続ける小野。その瞳に生気はまるで感じられない。 「しらない」 少し間を空けてとんできた言葉はそんな愛想の欠片もないようなものだった。とにかく感情がこもっていない。 世界には俺と小野の二人だけだった。 目の前に広がるのはただ、ただ闇。暗く、冷たい、黒い空間だ。 光の「ひ」の字もありはしなかった。 しかし、不思議なことに小野の姿だけは、はっきりと見える。 真っ暗な空間に小野の白い肌だけが、ぼうっと浮かび上がっているのだ。 この空間には気がつけば飛ばされていた。 どのような経緯でここに連れて来られたのか、まるで見当がつかない。 そしてここが¨ただ暗い空間¨でないこともおそらく俺は本能的に理解している。 「まぁ、どうすんのっていってもどうしようもないけどさ」 俺の声があたりに響く。そして一瞬にして闇に吸い込まれた。 隣に座る彼はまったく唇を動かさない。独り言のようにベラベラ喋る俺はなんとも滑稽だ。 まったく声を発さない小野に対し、俺は小さくため息をつくと彼の華奢な肩が少し震えた。 「‥ごめん」 「‥なんで謝んの」 「‥だって、おれのせいで」 「もう終わったことだ、気にしてない」 「‥でも、」 「‥最初から、こうなる運命だったんだよ」 俺の人生はあそこで終わることが定められていた。 つまりは必然。 そう思えば後悔もなにもない。 小野も俺も。 俺たちは死んだのだ。 お互い十分わかってしまっている。 ここが俺たちの生きていた世界では無いことを。 そしてもう、元の世界には戻れないことを。 ひらひら、 白い花がどこから舞ってきた。 「どうやら迎えが来たらしい」 俺たちの出会いはまさに一瞬だった。 最後に俺が見たのは空から降ってきたお前。 end
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