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その日の晩御飯を終えると、敬太郎は早速剣玉を持ち出してきました。
「パパ。ママ見ていて。これが『大皿』って言うんだよ」
そう言ってから
「えっと、まず両足を少し開いて。それから右足をちょっと前に出して。ここを親指と人差し指で挟んで、他の指はそっと添えてと」
構え方や持ち方をひとつずつ口に出して、確認していきます。そして
「よし、オッケー。いくよ、見てて」
敬太郎が膝をカクンと曲げてから、スクッ
と背を伸ばすと同時に、ぶら下がっていた赤い玉がスーッと浮き上がって、敬太郎の顔の前で、皿の上にコツンと乗りました。ママは思わず大きな声で
「わあっ、スゴイ」
叫んでしまいました。
「本当だ。上手だなあ」
パパも驚いています。敬太郎は得意げな顔をしています。
「じゃあ、今度は『小皿』いくよ」
さっきと同じ様に膝を上手に使って、今度は反対側の少し小さな皿の上に、玉を乗せました。ママは本当に驚いた様子で
「お見事」
と言ってから、こう尋ねました。
「敬ちゃん、いつの間に練習したの?剣玉も持っていなかったのに」
敬太郎は、少し困った顔をしています。
「そうそう、お友達に借りて、秘密の特訓をしたんだよ」
そして、話を反らす様に
「ねえ、パパ。『もしかめ』っていう技知ってる?僕、今度はそれをいっぱい練習するん
だ。じゃあ、おやすみなさい」
そう言って、自分の部屋に行ってしまいました。
敬太郎が部屋に行ってしまうと、パパはちょっと心配そうな顔をして、ママに話しました。
「俺が子供の頃にも、剣玉が流行ったことがあったんだ。だから解るんだけど、敬太郎は誰か大人の人に剣玉を教わっていると思うよ。あの膝の使い方は、子供同士の遊びの中で覚えたものでは無いよ」
そう言って、腕を組んで、しばらく黙っています。
「きっと何かを隠していると思うよ。それにボランティアも関係があるような気がする。ママ、少しの間、敬太郎の様子を良く見てあげてね」
「うん。わかったわ」
ママも、ちょっと心配そうな顔をして答えました。
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