- 2 -

5/5
前へ
/33ページ
次へ
どくん、と嫌な音をたてる心臓を無視して、耳が勝手に音を拾う。 「……はぃ」 美樹の問いかけに答えた睦の声は、消え入りそうなほど小さくて、震えていた。 その儚い声に胸がギリギリと痛む。 ガラスに映った二人の姿が信じられなかった。 いや、違う。 信じたくないだけだ。 恥ずかしそうに頬を染めて俯く睦も、 そんな睦を優しく見つめる美樹も、 現実じゃないと思いたかった。 「ぷっ! お前かっわいい~。悠兄達に見せてやりてぇわ」 「な、止めてください……」 「いつもの最強様はどうした……よ」 呆然とその場から動けずにいたら、ガラスの中の美樹と目が合った。 驚いたように眉を上げると、すぐに妖しく目を細める。 「いいじゃん、隠すことじゃないだろ?」 「でも……」 「素直になれよ。……好きなんだろ?」 「……好き、です」 ……やめろよ。 「誰が?」 「え?」 「誰が好き?」 「……知ってるクセに」 止めてくれ。 これ以上、この会話を聞いていられなくて、俺はじゃれあう二人から目を逸らした。 そのままフラフラと来た道を戻る。 まるで背後から聞こえる明るい声からにげるように。 『……好き、です』 『……知ってるクセに』 睦の声が、 恥ずかしそうに俯く姿が、 潤んだ瞳が、 頭から離れなかった。 -
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加