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どくん、と嫌な音をたてる心臓を無視して、耳が勝手に音を拾う。
「……はぃ」
美樹の問いかけに答えた睦の声は、消え入りそうなほど小さくて、震えていた。
その儚い声に胸がギリギリと痛む。
ガラスに映った二人の姿が信じられなかった。
いや、違う。
信じたくないだけだ。
恥ずかしそうに頬を染めて俯く睦も、
そんな睦を優しく見つめる美樹も、
現実じゃないと思いたかった。
「ぷっ! お前かっわいい~。悠兄達に見せてやりてぇわ」
「な、止めてください……」
「いつもの最強様はどうした……よ」
呆然とその場から動けずにいたら、ガラスの中の美樹と目が合った。
驚いたように眉を上げると、すぐに妖しく目を細める。
「いいじゃん、隠すことじゃないだろ?」
「でも……」
「素直になれよ。……好きなんだろ?」
「……好き、です」
……やめろよ。
「誰が?」
「え?」
「誰が好き?」
「……知ってるクセに」
止めてくれ。
これ以上、この会話を聞いていられなくて、俺はじゃれあう二人から目を逸らした。
そのままフラフラと来た道を戻る。
まるで背後から聞こえる明るい声からにげるように。
『……好き、です』
『……知ってるクセに』
睦の声が、
恥ずかしそうに俯く姿が、
潤んだ瞳が、
頭から離れなかった。
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