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「緋色にぃ?」
「……わかったよ」
それでも震え続ける携帯に、潤がおずおずと緋色を見つめて、緋色はしぶしぶ携帯を取った。
「……なに?」
『なに、じゃない! オレの前髪になんの恨みがあるんだよ!?』
「美樹、煩い。声下げて」
緋色は受話器から漏れる声量に眉を寄せた。
その電話の相手は、美樹。
ってか、前髪?
「なぁ、緋色はどんなメールしたんだ?」
さっき緋色の携帯を覗いていた潤に尋ねると、声を潜めてこう言った。
「"場合によっては、お前の前髪で屋上に吊るすから。覚悟しといてね"みたいな?」
え、えげつない。
つか、恐いって!
美樹の生え際攻防戦が危ない。
そんなことになったら前線撤退どころか、額に占領されてしまう。
「ちょっ、緋色? 落ち着い……」
「……。」
「なんでもない、です」
勢いで声をかけたが、無表情で黙殺された。
緋色のCGバリの美貌は、クルクル変わる表情を消すだけで、冷たく見える。
その上、大きな瞳で見つめられたら、こちらにやましい事がなくても謝罪したくなるほどの威圧感。
すっかり固まってしまった俺を見て、ため息をついた。
「もう……。美樹が変なことするから、悠がヘタレまっしぐらじゃん! ……え? あ、ね……そこは聞いてないんじゃない? 悠だし」
どうやら声を抑えたらしい美樹と、電話を続けた緋色はチラッと俺を見るとまたため息を吐く。
えっ……俺?
「ん、分かった。じゃさ、睦の足止め頼んでいい? ……ん、ありがと」
睦、と名前が出ただけで胸がずくん、と疼く。
美樹と一緒にいるその事実に再び打ちのめされた。
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