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「じゃ、よろしく。あ、美樹?」
電話を切ろうとした緋色が電波の向こうの美樹に呼び掛け、携帯を操作してこちらに向けた。
緋色の意図が分からず、潤と二人で動けずにいると予想外なことを口にした。
「愛してる。って言って?」
『えっ? って、あれ?』
は? アイシテル?
驚いたのは受話器の向こう側の美樹も同じで、先程よりクリアに聞こえる声が裏返っている。
『ちょっと待ってヒロ! これスピーカーじゃ……』
「お願い。言ってよ……」
『っ……!』
美樹の慌てた声を遮った緋色の声は微かに震えていた。
それで、気づいた。
さっきの違和感の正体。
緋色は怒っているわけではない。
不安なんだ。
無表情になるのも、黙るのも、指輪を弄るのも、不安なときの緋色のくせ。
『愛してる。ヒロ? お前を、お前だけを愛してる。……信じて?』
一声だけで、緋色の不安を見抜いた美樹の返答は柔らかな愛で溢れた声だった。
緋色の顔にようやく笑顔が戻る。
「……うん。僕も愛してる。信じてるから」
じゃ、また後で。
俺と潤は電話を切る緋色を茫然と見ていた。
いや、それしか出来ないだろ? この場合。
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