精一杯の声で

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サツキを送って、少しコンビニに寄ってから家に帰った。 「ただいま」 「あら、おかえり颯汰(ソウタ)」 ━…RRRR… 母さんがリビングから声を掛けてくれたのと同時に、電話が鳴った。 「あらあら…はい、間宮です」 そんな母さんを横目で見つつ、二階へ上がろうとすると 「…なんですってッ!」 母さんが急に大きな声をだした。 …どうしたんだろう? 「恵美ちゃ…ち着…てちょ…だ…今…?」 …恵美ちゃん… サツキの母さんだな… 途切れとぎれにしか聞こえないけど、なにやら大変な事みたいだ。 なんとなく… イヤな予感がして登りかけた階段を降りる。 それに気づいた母さんが、ボクにこう言った。 「颯汰!サッちゃんが倒れたのよ!」 …え?    サツキガ          タオレタ? 一瞬頭の中で     キー…ン… と物凄く高い音が鳴って、赤黒いフィルターに視界と思考が覆われる。 次の瞬間には手に持っていたカバンも、買ったばかりの週刊誌も放り出して外に飛び出していた。 さっき停めたばかりの自転車をがむしゃらに漕ぎまくって、飛び出したボクの背中に母さんが伝えてくれた『中央病院』へ向かった。 …━ ……━ ………━ この道は小さい頃、よくサツキと2人で歩いた。 団地を抜けると公園があって、そこはボクらのお気に入りの場所だった。 角のタバコ屋さんも、空き地の向かいの今にも潰れそうなボロ屋も、あの頃のまんまだ。 でも今のボクにそんな感傷に浸ってる余裕はない。 とにかく はやく病院へ… 普段は出さないスピードにママチャリがキィキィ文句を言ってるけどボクの耳には入らない。 そして間もなく見えて来た、白い大きな建物… ━中央病院━ ボクはペダルを踏む足に更に力を込めた。  
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