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わたしの声が消えた日
それは
カウントダウンが
始まった日だった
あの日
いつもの学校の帰り道
住み慣れた街の、見慣れた景色。
歩き慣れた川沿いの、舗装されきってない道。
春から通っている地元高校指定は、最近では珍しいセーラー服。
キミの声を待ちながら。
川ではしゃぐ子どもの声に何気なく目を向ければ、昔はコンプレックスだった色素の薄い髪と胸の紺色のリボンを南からの風が揺らしていく。
「サツキ」
キキッ…
という金属音と共に不意にかかった背中からの声。
反射的に振り向けばそこには、自転車から地面に降りようとするキミ。
熱いような、くすぐったいような…そんな気持ちで胸がいっぱいになる。
「ソウタ」
名前を呼べば小さい頃からそばにあった
無愛想な顔がわたしを見る。
胸に溢れる熱さを笑顔の裏に隠して。
「終わったの?」
いつもよりもなんとなく疲れた顔をしているソウタに目を合わせて聞けば
「…うん」
微かに頷いて目を伏せた。
そのまま自転車を止めて、土手を降りていくソウタ。
もともとあまり愛想のいい方ではないけれどそのいつもより更に口数が少ないソウタ。
その理由を知っているわたしはわずかな苦笑を噛み殺しながら。
最近急に広くなった気がする見慣れた背中を追いかけて、青く色付いた草をゆっくり降りていく。
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