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不貞腐れたブルドックのような前川の顔は、退屈からか不満からか、眉間に皺を寄せ、目を吊り上げ、口を尖らせ、その表情からも周囲に迷惑をかけた申し訳なさや反省など微塵も感じさせない。
それどころか、制服のブレザーやワイシャツのボタンを全て外し、足を組み、束子のような頭を背もたれに当て、時折後方に椅子を傾ける前川の態度は、学園ドラマで警察に補導された不良生徒のような、ふてぶてしさと挑発的な雰囲気を見事に兼ね備えており、より一層に周囲の反感を買っているように見える。
「何で卒業式に練習が必要なんだよ」誰に訴える訳でもなく、前川は喚く。
「全校集会の開会式とか、体育祭の閉会式とか、離任式とか修了式とか、後ろに式って付く他の学校行事のどれを取っても練習なんかしてねぇのに何で卒業式だけ練習が必要なんだ。しかも入場から退場まで段取りを勝手に決めやがって、こんなの式じゃなくて劇だ、卒業芝居だ」
前川は一通り喚いた後で、なあ的山、と僕に同意を求め、同時に学年主任が卒業証書を受け取る一連の流れを練習してみましょう、と生徒達に促し、最初のクラスの代表者が立ち上がった。
この学校の卒業式、正確に言えば卒業証書授与式では、およそ300人いる卒業生の全員が式中で証書を受け取る訳ではなく、各クラスで選ばれた代表者が全員分の卒業証書を受け取ることになっており、それ以外の卒業生は、自分のクラスの代表者が壇上に足を踏み入れるのと同時に立ち上がり、代表者が卒業証書を受け取り礼をするのと共に礼をし、檀から一歩足を踏み降ろすと同時に着席するだけで、僕も前川も後者に含まれる。
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