4人が本棚に入れています
本棚に追加
一瞬、天井の木目があの子の顔に見えて、重症だな、と思った。
それが恋の病のことか、それとも普通の病気のことかは、俺自身にもよくわからないけど。
ピピピピ、ピピピピ……
脇に挟んだ温度計が任務完了の報告をしてきた。
今時この電子音は古いよな。
携帯は着メロとかあるのに。
それとも俺が知らないだけで、音楽が流れる温度計もあるのか?
あったとしてもあんま欲しくないけど。
なるほど、需要がないから作られないのか、と勝手に一人で納得しつつ、脇から取り出したブツのデジタル数字に目を向ける。
38.8℃
「…………ぐああ……」
見るんじゃなかった。
なんか余計にしんどくなった。
掛け布団を蹴り飛ばしたい衝動に駆られたが、後で取りに行くことを考えて、代わりに温度計を畳の上に放った。壊れない程度に。
布団を首元まで引き寄せながら、俺は暗い思考に走る。
正直言って風邪をひくのはそれ程嫌じゃない。
確かに身体は怠いけど、真面目な俺が堂々と学校を休めるこの機会は、7:3ぐらいで良いことの方が多い。
それが平日であれば、の話だけど。
「……出たかったな。卒業式……」
別に卒業式に出なかったからって、卒業出来ない訳じゃない。
でも人生で多くて5回ぐらいしかないこの行事に参加出来ないのは、やっぱり堪える。
高校に行ったら会えない奴とかもいるし、仲の良い友達と記念撮影もしたかった。
親に晴れ姿を見せたかったし、みんなの卒業アルバムに一言書き込んだり、自分のに書いてもらったりしたかった。
そして何よりも……
布団の中で未練がましく握ったままの紙切れを、布団の中から取り出して、広げた。
しわくちゃになった紙には、汚らしい字で、愛のセレナーデが書かれている。
嘘。
そんなものが書けたら良かったけど、文才のない俺には、これが限界だった。
「好きです。付き合って下さい」
……いや、いくら文才なくても、ここまでありきたりなフレーズはないだろ。
真夜中まで頑張ってコレかよ。
昨日の夜、俺はプロポーズする時の言葉を必死に考えていた。
それはもう、テスト勉強の10倍以上の集中力だった。
しかしいつの間にか机の上で撃沈していた俺は、ストーブの灯油が切れたことに気付かず、結果、このザマである。
今度絶対に電気ストーブを買ってもらおう。
最初のコメントを投稿しよう!