お題 卒業式・ストーブ・風鈴

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一瞬、天井の木目があの子の顔に見えて、重症だな、と思った。 それが恋の病のことか、それとも普通の病気のことかは、俺自身にもよくわからないけど。 ピピピピ、ピピピピ…… 脇に挟んだ温度計が任務完了の報告をしてきた。 今時この電子音は古いよな。 携帯は着メロとかあるのに。 それとも俺が知らないだけで、音楽が流れる温度計もあるのか? あったとしてもあんま欲しくないけど。 なるほど、需要がないから作られないのか、と勝手に一人で納得しつつ、脇から取り出したブツのデジタル数字に目を向ける。 38.8℃ 「…………ぐああ……」 見るんじゃなかった。 なんか余計にしんどくなった。 掛け布団を蹴り飛ばしたい衝動に駆られたが、後で取りに行くことを考えて、代わりに温度計を畳の上に放った。壊れない程度に。 布団を首元まで引き寄せながら、俺は暗い思考に走る。 正直言って風邪をひくのはそれ程嫌じゃない。 確かに身体は怠いけど、真面目な俺が堂々と学校を休めるこの機会は、7:3ぐらいで良いことの方が多い。 それが平日であれば、の話だけど。 「……出たかったな。卒業式……」 別に卒業式に出なかったからって、卒業出来ない訳じゃない。 でも人生で多くて5回ぐらいしかないこの行事に参加出来ないのは、やっぱり堪える。 高校に行ったら会えない奴とかもいるし、仲の良い友達と記念撮影もしたかった。 親に晴れ姿を見せたかったし、みんなの卒業アルバムに一言書き込んだり、自分のに書いてもらったりしたかった。 そして何よりも…… 布団の中で未練がましく握ったままの紙切れを、布団の中から取り出して、広げた。 しわくちゃになった紙には、汚らしい字で、愛のセレナーデが書かれている。 嘘。 そんなものが書けたら良かったけど、文才のない俺には、これが限界だった。 「好きです。付き合って下さい」 ……いや、いくら文才なくても、ここまでありきたりなフレーズはないだろ。 真夜中まで頑張ってコレかよ。 昨日の夜、俺はプロポーズする時の言葉を必死に考えていた。 それはもう、テスト勉強の10倍以上の集中力だった。 しかしいつの間にか机の上で撃沈していた俺は、ストーブの灯油が切れたことに気付かず、結果、このザマである。 今度絶対に電気ストーブを買ってもらおう。
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