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落ちた人間は自力で川から這い上がり倒れ込んでいる。あの高さ(どの位から落下していたかは知らないが)から落ちたのだ。全身打ち身で動けないだろう。その時、さとりの中の妖怪の本能が騒いだ。抵抗出来ない生きた人間。その肉は、脳は、肝は、どれほど美味だろうか。地底では常に“調理済み”のものしか食べた事がなく、生きた人間などもう何年も食べていない。
しかしそんな野生の思考に嫌気が差す。
──食い意地を張り過ぎよ、さとり。人間のペットも乙なものかもよ。
自分にそう言い聞かせながら砂利だらけの地面に足を着け動けない人間を担ぎ再び浮いた。その時人間が小さく声を上げた。
「女の子が俺を担いで空飛んでる……夢だな」
喉の奥で笑い人間は気絶した。良い気なものだとさとりは小さく溜め息をつく。
「地上の土産物が人間だと知ったらペット達に食べられそうですね……」
取られる位なら自分で食べますけど、と付け加え地底への入り口である先の見えない暗い洞窟に入った。
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