覚と人間

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「お久しぶりね、さとり。貴女が地霊殿から出るなんて珍しいわね」 地霊殿とは旧都中央に位置するさとりの屋敷の名前だ。其処にはさとりの妹である古明地こいしと彼女等のペットと呼ばれる妖獣達が共に住んでいて、地底では特別大きな屋敷だ。 「なに、ただの息抜きですよパルスィ。それとこの人間は食べ物じゃあありませんよ?」 「相変わらず、此方が言う前に答えるんだから。さすがは妖怪覚ね」 喉の奥で笑う彼女は橋姫の水橋パルスィ。嫉妬に狂い、狂わされる妖怪。笑う時に動く唇には少し艶っぽささえ感じられる。 妖怪覚とはさとりの事だ。人の心を読む妖怪を好く者などいるはずもなく、彼女の愛する幻想郷から追い出された身分。しかし好きで心を読んでいるわけではない。心を読む妖怪なのだから読まない事が無理なのだ。心を読まなくなると覚は存在しない者となる。そこにいるのに、いない者となる。無意識となるのだ。
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