3章 壬生狼組

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「ま、これで分かったろ?お前は沖田総司だ」 そう言って、土方は奏の肩を叩く。 ここまでつじつまの合う事を言われると、奏も何も言い返せない。 「これって……私が壬生狼組に入隊って事ですか?」 「まあ、そういう事だな」 「でも、私剣なんて使った事ないし、足手まといになるんじゃないですか?」 刀を抜くことすら怖かった自分が、これを振り回して戦えるとは到底思えなかったので何とか断ろうとする。 「確かにな」 斎藤も奏に同意する。 それはそれでカチンとくる奏。 う~ん……と唸る三人。 「どうかしたのか?」 そこに、ニコニコ顔で部屋に入ってきた人物が四人に声をかける。 「あ、近藤さん」 山南が振り返って、相手の名前を呼ぶ。 「近藤……さん?」 奏は、近藤と呼ばれた男を見つめる。 名前は何度か聞いた事あったが、姿を見るのは始めてだった。 近藤伊月(いつき) 泣く子も黙る壬生狼組の局長である。 「近藤さんって、近藤局長ですか!?」 奏は土方の腕を引っ張って、興奮したように確認する。 「そうだが……何、テンション上がってんだよ?」 「近藤局長といったら、浪士を一瞬で切り捨てるほどの剣の腕。なのにほとんどカメラの前に現れないミステリアスな人!そんな人が目の前にいたらテンションも上がりますって!」 奏は女子高生にしては珍しい近藤ファンだった。 「……お前、俺を前にした時と偉い違いだな」 女性人気を自負している土方としては、複雑な気分だった。 「いや、土方さんは……カッコイイというより変人というインパクトが強くて……った!?」 奏の言葉に、無言で頭にチョップを食らわせる。 「お前たちのやり取り、まるでカノジョが総司のようだな」 奏と土方のやり取りを見て、そんな事を言い出す近藤。 「さっすが、かっちゃん!ちょうどコイツが総司だって証明されたトコだよ」 近藤の前でもう一度刀を抜いて見せろと土方に言われ、奏は渋々抜いてみせる。 2回目と言えども、いまだに恐怖心が勝って少ししか抜けなかったが。 その姿を見て、近藤は目を輝かせる。 「本当だな!だったら早く言ってくれたら良かったのに…」 そして奏へと向き直る近藤。 「トシから総司は記憶がないだろうと聞いていたんだが……本当なのか?」 「はい……正直全く記憶がないので自分が沖田総司だとは思えませんし、壬生狼組に入隊する資格があるとも思えません」 そうかそうかと笑って奏の肩を叩く近藤。 「まあ、記憶があろうがなかろうが関係ない!君も今日から壬生狼組の仲間なんだからな!」 近藤のその言葉に、奏は少し気が楽になったのだった。 あれ? いつの間にか入隊する事になってない? これでいいのかと一瞬思ったが、近藤の笑顔を見ているとそれ以上何も言えなかった。 とりあえず今日の所は帰っても良いと言われた奏。 手続きがあるから、すぐに入隊という事にはならないらしい。 それを聞いてホッとする。 「おい、総司。確か買い物に付き合ってやるって約束だったよな?」 疲れきった顔で帰路につこうとした奏に、声をかける土方。 「そういえば……そんな約束しましたね」 確かに家を出る前、そんな話をした事を思い出す。 「でも、まだ仕事があるんじゃないんですか?」 時計を見ると、まだ正午過ぎだった。 「約束は守る主義なんだよ。昼休みの間に帰って来たら問題ねぇしな。一、車」 「……俺、そろそろ寝たいんですけど」 朝、斎藤に迎えにきてもらった土方には他に足が無かったのだが、斎藤も夜勤明けで疲れがピークに達していた。 「ウチの近所のスーパーまで乗せてけ。そしたら帰っていいから」 「はいはい」 結局、土方の頼みを断れない斎藤だった。 確かに自分も家まで帰る足がないし、斎藤には申し訳ないがお言葉に甘える事にした。 しかし奏は何故断らなかったのかと後悔する事になる。 すっかり忘れていたのだ。 土方が有名人だという事を……
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