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斎藤にマンションの近くのスーパーまで送ってもらった奏と土方。
先に土方が降り、続いて奏が車を降りようとする。
「斎藤さん、ありがとうございました」
そう言って降りようとすると、斎藤がポツリと呟く。
「お前は記憶が無くても土方さんに可愛がられるんだな」
「え?」
小さな小さな呟き。
奏に聞こえるように言ったのではなく、ただの独り言だったのかもしれない。
しかしそうだとしても聞こえてしまったため、奏は斎藤にその言葉の意味を問おうとしたが、土方の呼ぶ声に遮られる。
「では、またな」
そう言われてしまっては、奏もこれ以上は聞くことが出来なかった。
改めて礼を言って、奏は車を降りる。
斎藤はそのまま車を発進させた。
「おい、総司!いつまで待たせるんだ?」
「だから総司じゃないって言ってるでしょーが!」
斎藤の言葉が気になりながらも、スーパーの入口でイライラしたように待っている土方の元へと駆け寄るのだった。
失敗した……
チラリと隣を歩いている人物の顔を見上げる。
そこには整った顔が真っ直ぐに前をっ見据えている。
奏は買い物を始めて5分で後悔した。
よく考えたら隣にいる人物は土方歳郎。
人気のある壬生狼組。
その中でも断トツ人気のある土方歳郎。
その土方が女の子とスーパーで買い物。
目立つなという方が無理なのである。
周りは遠巻きに二人を見ながらコソコソ話。
奏は居心地の悪さを感じながら、土方から少し離れて買い物をしていた。
「で、何が欲しいんだ?」
「というか……土方さんは気にならないんですか?」
「何が?」
土方としたら、周りの視線には慣れているので気にならない。
奏が何を言っているのか皆目見当がつかなかった。
「だって、土方歳郎が女の子と買い物…スキャンダルじゃないですか!絶対、彼女と間違われてますよ、私」
「……ないわ」
一瞬考えて、奏の訴えを切り捨てる土方。
「お前が彼女?ないない、それはない。せいぜい妹だろ」
それはどういう意味ですか?
怒っていいとこですよね?
「だいたいスキャンダルって……別に俺はアイドルでも何でもないし。俺が誰と付き合ったって関係ないだろ」
「そりゃそうですけど……」
そこらのアイドルよりは、よっぽど人気があるのだが……と奏は思う。
「土方さんって自分がイケメンだって自覚はないんですか?」
「いや、俺以上のイケメンはそうそういないと思ってる」
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