4章 土方という男

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奏は近くで浪士を見るのは初めてだった。 浪士の目は異常なほど殺気立っていて、思わず後ずさる。 「総司、俺があいつらと戦ってる隙をついて逃げろ。いいな!」 「そんなの出来ません!敵前逃亡は法度違反です!」 「え?」 「え?」 奏の言葉に思わず振り返る土方。 しかし奏も自分が言った言葉の意味が分からないといった顔をしている。 「やっぱ、お前は総司だな」 土方は奏を見てニヤリと笑う。 「けど、この人数をお前守りながら戦うのはちと骨が折れる」 5人の浪士達が、ジリジリと2人に近づいてきていた。 「…」 足手まといだと言われ、奏はそれ以上何も言えなくなった。 鞄の中にある携帯を握りしめる。 次の瞬間、土方に向かって浪士達が斬りかかった。 土方は強かった。 一瞬で浪士を1人斬り、斬られた浪士は消滅した。 奏は浪士が斬られた瞬間に、振り返って走り出した。 走りながら鞄の中から携帯を取り出し、壬生狼組に通報する。 「もしもし!土方さんが…土方さんが浪士と戦ってて!」 電話を切って、振り返ると土方がまた1人、浪士を斬った所だった。 逃げろと言われたが、やはり土方を置いて逃げる事は出来ない奏。 とりあえず応援を呼ぶ事が出来た。 壬生狼組が到着するまで時間を稼ぐなら、1人よりも2人の方が良いはずだ。 辺りを見渡すと、箒が落ちているのを見つけた。 「っ……」 それを握りしめると、奏は土方がいる場所へと走り出した。 奏が離れている間、土方はまた1人斬り伏せた。 しかし、いつの間にか土方の後ろに浪士が1人回り込んでいた。 分かってはいたが反応が遅れた。 「土方さんっ!」 土方の後ろにいる浪士に向かって箒を振り下ろす。 もちろんただの箒なので浪士に効き目はない。 それでも浪士の気を土方から逸らす事が出来た。 「総司!?お前、何で!?」 「私は……やっぱり土方さんを置いては行けません!」 今度は浪士が奏へと斬りかかる。 それを何とか凌いでいる奏。 剣初心者の奏が浪士の攻撃を防いでいる。 土方は感心した。 しかし…… 「っあ!?」 奏と浪士が鍔ぜり合いになる。 技術が無く体力もないので、すぐに奏が押し負けてしまう。 「総司!?」 奏はそのまま後ろに飛ばされて、塀に体を打ち付ける。 「……」 気を失った奏に、浪士が刀を振り上げる。 「くっ……総司!!!」 奏の所へ駆け付けようとするが、別の浪士に阻まれて動けずにいた。 そして、刀が振り下ろされる。 「総司!!!!」
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