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あれは俺が9つの時。
試衛館に入門してすぐの頃でしたね。
家族と離れて、いわゆるホームシックってやつですか?
若先生は優しくしてくれてたけど、大奥様は厳しくて…
それに家の事ばかりやらされて、なかなか剣の稽古も出来なくて、とにかく辛くて庭の片隅で箒持って泣いてたんですよねぇ。
今思い出すと、ちょっと恥ずかしいですね。
そんな俺に声をかけてくれたのが土方さんでしたね。
「どうしたんだ、餓鬼?もしかして迷子か?」
見つからないように泣いてたのに、いきなり声かけてくるもんだから、ビックリして涙も止まっちゃいましたよ。
俺の土方さんの第一印象気になりますか?
え、気にならない?
そんな事言わずに聞いてくださいよ。
土方の第一印象は綺麗な人だなぁ。ですよ。
何ですか、その疑いの眼差し。
本当ですよ。
見た目もですが、中身がキラキラしてる感じがしたんです。
生きてるのが楽しいっていうのが体から滲み出ていて、後ろ向きな事ばかり考えてた俺には眩しく見えたんですよ。
「なんだよ、口が利けねぇのか?」
見惚れて返事をしなかった俺に、イライラしたように言いましたよね。
子供相手に大人気ない。
綺麗だなぁっていう第一印象は、すぐに綺麗だけど口が悪くて短気な人だな、に変更になりましたよ。
「迷子じゃありません!」
泣いている所を見られて、恥ずかしさから強気に返事をしたんですよね。
「迷子じゃないって…ここん家の子って事か?はっ、もしかして先生の隠し子!?」
「違います!俺はここの門人です」
土方さんったら、変な誤解するからビックリしましたよ。
一応、俺が門人だって事に納得はしてくれましたよね。
「で、何で箒持って泣いてんだ?」
まあ、土方さんの疑問は最もだと思いますよ。
俺は内弟子だからと説明して、ついでに家に帰りたい、剣の修業がしたいって、また出てきた涙を拭いもせずに言いましたよね。
「お前なぁ、男だったら簡単に泣くなよ」
泣いてる俺に呆れたように言う土方さん。
「泣いてる暇があるなら、出来る事をやれ」
そう言って、俺の持っている箒を取り上げる。
「まだ道場に入らせてもらえないなら、外から稽古の様子を見ろ。で、これで練習すればいい」
土方さんは箒を竹刀の代わりのように振る。
箒を竹刀に…
俺には思い付かない発想でしたよ。
「お前、名前は?」
「沖田…惣次郎…」
「そうか。俺は土方歳三だ」
それが、俺と土方さんの出会いでしたよね。
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