【閑話】沖田総司の昔語り

2/5
前へ
/36ページ
次へ
あれは俺が9つの時。 試衛館に入門してすぐの頃でしたね。 家族と離れて、いわゆるホームシックってやつですか? 若先生は優しくしてくれてたけど、大奥様は厳しくて… それに家の事ばかりやらされて、なかなか剣の稽古も出来なくて、とにかく辛くて庭の片隅で箒持って泣いてたんですよねぇ。 今思い出すと、ちょっと恥ずかしいですね。 そんな俺に声をかけてくれたのが土方さんでしたね。 「どうしたんだ、餓鬼?もしかして迷子か?」 見つからないように泣いてたのに、いきなり声かけてくるもんだから、ビックリして涙も止まっちゃいましたよ。 俺の土方さんの第一印象気になりますか? え、気にならない? そんな事言わずに聞いてくださいよ。 土方の第一印象は綺麗な人だなぁ。ですよ。 何ですか、その疑いの眼差し。 本当ですよ。 見た目もですが、中身がキラキラしてる感じがしたんです。 生きてるのが楽しいっていうのが体から滲み出ていて、後ろ向きな事ばかり考えてた俺には眩しく見えたんですよ。 「なんだよ、口が利けねぇのか?」 見惚れて返事をしなかった俺に、イライラしたように言いましたよね。 子供相手に大人気ない。 綺麗だなぁっていう第一印象は、すぐに綺麗だけど口が悪くて短気な人だな、に変更になりましたよ。 「迷子じゃありません!」 泣いている所を見られて、恥ずかしさから強気に返事をしたんですよね。 「迷子じゃないって…ここん家の子って事か?はっ、もしかして先生の隠し子!?」 「違います!俺はここの門人です」 土方さんったら、変な誤解するからビックリしましたよ。 一応、俺が門人だって事に納得はしてくれましたよね。 「で、何で箒持って泣いてんだ?」 まあ、土方さんの疑問は最もだと思いますよ。 俺は内弟子だからと説明して、ついでに家に帰りたい、剣の修業がしたいって、また出てきた涙を拭いもせずに言いましたよね。 「お前なぁ、男だったら簡単に泣くなよ」 泣いてる俺に呆れたように言う土方さん。 「泣いてる暇があるなら、出来る事をやれ」 そう言って、俺の持っている箒を取り上げる。 「まだ道場に入らせてもらえないなら、外から稽古の様子を見ろ。で、これで練習すればいい」 土方さんは箒を竹刀の代わりのように振る。 箒を竹刀に… 俺には思い付かない発想でしたよ。 「お前、名前は?」 「沖田…惣次郎…」 「そうか。俺は土方歳三だ」 それが、俺と土方さんの出会いでしたよね。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

530人が本棚に入れています
本棚に追加