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―その頃の壬生狼組―
「歳さ~ん」
「ふっくちょ!」
デスクで書類整理をしていた土方の両脇から、ガッシリ肩を組んできた二人組。
「何だよ、新八、左之助……」
二番隊隊長、永倉新一と十番隊隊長、原田聡之助。
2人のニヤニヤ顔見て、また何か企んでるなと警戒する。
「歳さんさぁ、俺達見ちゃったんだよねぇ~」
永倉の遠回しな言い方に若干イラっとくる。
「見たって、何を?」
すると反対側にいた原田が後を続ける。
「昨日、副長が女の子とデートしてるトコを」
「デート?」
言われて昨日を振り返るが、デートをした記憶は一切無い。
「そんな、惚けなくてもいいよ。昨日、買い物デートしてただろ?」
買い物……買い物……買い物。
あぁ!!
そこまで考えて思い出した。
「あれはデートじゃねぇよ」
この2人、昨日は非番だったので奏の事を知らないのだ。
「あのなぁ、あれは総……」
言いかけて、土方は言葉を止める。
昨日の出来事を思い出す。
土方はずっと奏と総司は同一人物だと思っていた。
記憶がないだけで、総司なのだと。
しかし、昨日総司の人格が現れて土方は内心戸惑っていた。
奏と総司が別人格だと知って、奏に対してどう接したらいいのか分からずにいた。
しかし、2人は土方の様子を気にする事もなく話を続ける。
「やっと歳さんに戻ったぁ……って感じだな」
「うんうん。江戸を出て以来女を寄せつけず……生まれ変わっても気配すら無かったもんなぁ。あの遊び人の副長が!?って、最初信じらんなかったもんな」
江戸にいた頃の土方は、女を取っ替え引っ替えで、よく近藤に迷惑をかけていた。
その土方が新選組を結成して以来、全く遊ばなくなった……
それは生まれ変わっても変わらず、永倉と原田は心配していたくらいだ。
その土方が女の子と一緒にいた!?
それは、壬生狼組にとってスクープだった。
勝手に盛り上がる2人に、土方は釘を刺す。
「お前ら、あれがデートに見えたっつーならまだまだだな。あれは彼女なんかじゃなくて……総司だ」
「……え?」
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