入隊

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一方、その頃警視庁の玄関で…… 「近藤さん、お待たせしました!」 奏は近藤に電話で呼び出されたため、警視庁へと足を運んでいた。 「いや、すまないね。急に呼び出したりして」 2人はロビーのソファーに座る。 「いえ……それより、お話とは?」 「あぁ、昨日は大変だったようだね。トシから聞いたよ」 昨日、昼休みが終わり戻ってきた土方から浪士との戦闘を聞いた。 「トシを救ってくれたんだってね。ありがとう」 近藤からお礼を言われ、気まずそうに視線を逸らす。 「私は何もしてないです。逃げろって言われたのに、余計な事をして足を引っ張りました」 土方の言うことを聞かずに勝手な行動を取った事が気になっているのだ。 「いや、君が助太刀してくれなかったら危なかったとトシも言っていた」 近藤にそう言われ、幾分気持ちが軽くなった。 「それで……その時何かあったのかな?」 「何か?」 漠然とした質問に、奏は首を傾げる。 「帰ってきてたらトシの様子がおかしくてね」 「様子がおかしい?私に対して怒ってたんじゃないですか?」 「……いや、そんな感じじゃなくて、何か考え込んでる感じなんだが……私の思い過ごしかな」 心当たりのなさそうな奏に、それ以上追求する事はせずに話を終えた。 「お話って、土方さんの事ですか?」 「いや、ここからが本題だよ」 「君は、沖田総司だ。それは間違いない」 「……」 近藤にはっきりとそう言われても、記憶のない奏には何とも言えない。 「君には、壬生狼組に入隊する資格があり、また力もある」 「……」 限られた人間にしか持っていない力。 「君は壬生狼組に入隊して、浪士達と戦う意思はあるかい?」 「……え?」 昨日の土方達の様子から、問答無用で入隊させられると思っていた奏は、そんな問いをかけられるとは思っていなかった。 「どんなに力があっても、君に戦う意思が無いのであれば君は勝つことは出来ない。……そして負けとは、すなわち死を意味する」 【死】という言葉に、奏の肩が震える。 「君に意思と覚悟が無いのであれば、今までの事は忘れて普通の生活に戻ってほしい」 奏は近藤の言葉を頭の中で反芻しながら、考える。 今まで通り、浪士達に怯えながら生きていくのか? それとも、壬生狼組として浪士達と戦って市民を守るのか? 今まで普通の生活を送っていた自分が死と隣り合わせで生きていけるのか?
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