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「わ、私は……」
ここ数日、考えに考え抜いて出した結論を口にする。
「いきなり沖田総司の生まれ変わりだなんて言われたって信じられないし、壬生狼組になんて絶対嫌だと思ってたんです」
近藤は、ただ黙って奏の言葉を聞いている。
「いくら天才剣士の生まれ変わりだって、私は剣を持った事もない素人です。皆さんの足を引っ張るしか出来ないと思っています」
でも……と言いながら、奏は昨日浪士に襲われた時の事を思い出す。
「昨日、土方さんに逃げろって言われて……私、逃げたくなかったんです。戦う事なんてした事がない私が、それでも戦いたいと思った」
そう言って近藤の顔を見ると、優しく微笑んでいた。
その穏やかな表情に後押しされるよう、奏はハッキリと決意を言葉にした。
「私に少しでも戦う力があるというなら……その力で守らせてください」
「では、これを……」
奏の話を聞き終えた近藤は、何かを差し出した。
奏は反射的に受け取る。
「これ……」
それは壬生狼組の腕章だった。
「誠」と書かれた腕章を、奏はまじまじと見つめる。
「制服はまだ用意出来ていないんだが、それを先に渡しておくよ」
その腕章は、壬生狼組の証。
それを着用していないと、刀を使う事が許されない。
「浪士達と戦う時は、必ず着用するんだよ」
「はいっ!」
奏は、さっそく腕章を左腕に着ける。
「さあ、おいで。改めて皆に紹介しよう。そして、菊一文字を君に返そう」
そう言って立ち上がった近藤に倣って、奏も立ち上がる。
こうして、壬生狼組一番隊隊長は誕生した。
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